【シリーズエッセイ】カラダにまつわる数字のリアリティー その1「DNAの太さと長さ」
さて、今日から新しいシリーズエッセイを書いてみます。
ネタが続く限り、不定期に続ける予定。。
テーマは「カラダにまつわる数字」です。
カラダ系のことをいろいろやっていると、よく、こんな言葉を聞きますよね。
「カラダの声を聞いてくださいね〜」
まあ、そういうのがとっても大事なのは、もちろん僕も同意します。
(なにしろ、そういうタイトルの本を書いたこともあるぐらいですから。。)
そういうタイトルの本↓
カラダの声をきく健康学 | |
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ただね、、、
「カラダの声」っていう言葉で表されるものは、とてもあいまいで、感覚的なものです。
だから、カラダに関する無意識のイメージ(ボディイメージ)の持ち方次第では、かなり恣意的にゆがんだり、偏ったりしやすいのです。
自分のカラダについて、どんなイメージを持っているか。
感覚的なものを大切にするためにこそ、まずは数字で裏付けられたきちんとしたボディイメージを持つことが、とっても大事だと、僕は思うのです。
で、、実際、細かな数字をいろいろと拾っていってみると、、、僕らが無意識のうちになんとなく抱いているカラダのイメージと、サイエンスが明らかにした現実のカラダの構造や働きは、けっこうずれていることが多いです。
そのあたりを埋められるように、面白く且つリアルに書いていけたらいいな、と思ってます。
そんなわけで、第1回のテーマは「DNAの太さと長さ」です。
遺伝子を担うDNAは、糸状の細長い分子です。
その直径は、2ナノメートル。
この数字はたぶん、中学や高校の教科書にも載っているぐらいの、基本情報でしょう。
で、、じゃあ、その「2ナノメートル」というDNAのサイズ感を、どのくらいリアルにイメージできていますか? というのが、今日のお話の始まり。
僕らはよく、ごく小さなサイズのものを、指先を使って「こんなに小さいよっ!」って示します。親指と人差し指の指先をすれすれまで近づけて。
その時の指先の間隔は、まあ、ぎりぎりまで近づけたとしても、せいぜい1ミリぐらいでしょう。
ナノレベルとは、あまりに程遠い。
日常感覚の範囲で、リアリティを持って「小さい」と感じられるのは、ミリ単位ぐらいが限界です。
長さの単位における一番の基本は、メートル。
1メートルがどのくらいのサイズなのかは、まあ、だれでもわかりますね。
その1000分の1が、1ミリメートル。
さらに1000分の1が、1マイクロメートル(ミクロン)。
そのさらに1000分の1が、1ナノメートルです。
と、、、こんなふうに書いても、「ナノって、ものすごく小さいんだな」という以上にはピンとこないのが普通でしょう。
実際、ナノとミクロンは1000倍も違うのだけれど、僕らの日常感覚としては、どちらも「すごく小さい」としか感じられないし。。
そこで、太さ2ナノメートルのDNAが肉眼で見えるぐらいまで、世界を拡大してみましょう。
題して、「ミリオンスケールの世界」。そこでは、すべてのもののサイズが100万倍に拡大されます。
1000倍のさらに1000倍、つまり6桁分のスケールアップです。
ここでは、DNAの直径が2ミリになります。
まあ、タコ糸ぐらいの太さです。これなら目に見えるし、リアルにイメージできますね。
では、問題。
この世界において、「細胞」はどのくらいの大きさになるでしょうか。
ヒトの細胞のサイズにはさまざまなバリエーションがありますが、標準的な大きさは、縦、横、高さのサイズがそれぞれ 10〜数十ミクロン程度、といったところでしょう。
これを「ミリオンスケールの世界」に持っていくと、、
「10〜数十メートル」となります。
縦、横、高さのサイズがそれぞれ10〜数十メートル程度の空間を、イメージしてみましょう。
身近なものでいうと、、、そうですね、例えば小学校の体育館ぐらいでしょうか。
あれが、細胞1個です。
その床に、タコ糸が落ちている。それが、DNAです。
さあ、、、どうでしょうか。
「細胞」と「DNA」を一緒くたにして、「うんと小さいもの」と感じていた人が多いと思いますが、両者の間には、こんなにサイズ観の差があるのです。
さて、、DNAは、細胞内部の「核」に収められています。
核は球状の小器官で、そのサイズは直径数ミクロンぐらい。
これを「ミリオンスケールの世界」に持ってくると、、
直径数メートルの球体になります。
熱気球とか、アドバルーンとか、それぐらいの大きさですね。
小学校の体育館のなかに、熱気球を浮かべます。まあ、ぶら下げてもいいですけど。
これが細胞の核です。
この球のなかに、DNAが収められているわけです。
さてさて、、DNAの太さがタコ糸ぐらいなのはわかりましたが、、、長さはどんなものでしょう。
ヒトのゲノムを構成するDNAは、人間一人分(細胞1個に収まっている総量=染色体46本分)を全部つなげると、約2メートルになります。
リアルな長さで2メートルです。直径2ナノメートルの極細の糸(DNA)が、細胞1個の中に2メートル分もあるのです。
それだけでもすごい話ですが、、
これを「ミリオンスケールの世界」に持っていくと、、、
はい、ものすごいことになります。
長さ2000キロメートルです。
それってどのくらいかと言いますと、、、
東京から北に向かって1000キロほど進むと、北海道の北端の稚内市の近くまで行きます。
また、西へ向かって1000キロほど進むと、ちょうど鹿児島の桜島のあたりまでいくのです。
ということは、、2000キロは、稚内から東京を通って桜島までの距離、ということになります。
稚内〜東京〜桜島というルートに、太さ2ミリのタコ糸を、ピンと張りましょう。これで総延長2000キロメートルほどになるはずです。
これが、ミリオンスケールの世界における、ヒトの全DNAです。
それを、染色体46本分に切り分けます。わかりやすいようにほぼ等分割にしましょうか。この場合、1本あたりの長さは43キロほど。マラソンコースよりちょっと長いぐらいですね。
で、、、その46本のマラソンコース長のタコ糸を、絡まないように丁寧に、できるだけコンパクトに折りたたんでください。
そしたらそれを、先ほど小学校の体育館に浮かんでいた熱気球の中に、収めてください。
絡まないように注意してくださいね。絡んだら、もう使い物にならないですよ。
ヒトのゲノムを構成するDNAの姿って、こんな感じなんです。
壮大というか、精密というか、、ちょっと想像を越えた感じですよね。
で、、、
この総延長2000キロメートルのタコ糸の上に、約2万個の「遺伝子」が乗っかっています。
イメージとしては、、、まあ、スイッチみたいなものが2万個ほどあると思ってください。
ほら、、最近のイヤホンで、コードの途中にボリュームなどが付いているやつがありますね。あんな感じのスイッチが、2000キロのタコ糸の中に2万カ所ほどある、と、そんなイメージでしょう。
そこには、1番から2万番まで順に、番号が振ってあります。
さて、、細胞が生きていくためには、これら2万個の遺伝子スイッチが、状況に応じて働きぶりを調節する必要があります。
たとえば、、、いきなり、こんな場内アナウンスが流れるのです。
「8324番、いまから30分間、50%増産体制に入るように!」
こんなときに、「えーっと、8324番はどこにあるんだっけ・・・?」なんて探しまわっていては、生きていけない。場内アナウンスがなられた瞬間から、スパッとスイッチが切り替わらないといけないのです。
ほら、、さきほど「絡まないように」ってさんざん言った理由がわかるでしょ?(笑)
そんないきなりの指令が来ても、遺伝子はビシッと対応するのです。だから、細胞は(私たちは)生きていける。
カラダって、ほんとうに、大変なものです。