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緊張すると体が動かなくなるのは人間だけ?

怒ったときや緊張したとき、ストレスがかかったとき。

体にはだいたい、こんな症状が現れる。

 

(1)心臓がドキドキする

(2)肩に力が入る

(3)みぞおちやお腹が硬くなる

(4)呼吸が浅くなる。特に吐く息が浅くなる

(5)頭がカッカする

 

こういった、体の緊張ないし興奮状態を作り出すベースとして働いているのは、交感神経。

自律神経のうち、体を興奮側へシフトさせる機能を持つシステムだ。

 

自律神経は「交感神経」「副交感神経」という2系統があって、よく対比的に語られるけれど、解剖学的に見ても、機能的に分析しても、この2系統は必ずしも対称形になっていない。

進化の過程において、交感神経システムがまず敷設され、そこに副交感神経システムが付加されたと解釈する方が納得しやすいかたちになっているという。

だから、交感神経系の方が、より原始的なシステムだろうと考えられている。

 

確かに、太古の生き物において、自分の生存確率を高めるには、リラックスするシステム(副交感神経)よりもまず、逃走や闘争のために馬鹿力を発揮させるシステム(交感神経)の方が優先的に必要だった、というストーリーは理にかなっていると思う。

 

で、そう考えると、交感神経系は、生き物(神経系というシステムを持つ多細胞動物)の生存にとって、かなり根源的なシステムに違いない、ということになる。

 

ところが・・・人間の現実の生活を振り返ってみると、生き残る確率を高めるために稼働しているはずの交感神経系システムが、結果として自分の健康を損なったり、心や体のパフォーマンスを低下させてしまうという、一見矛盾した現象がしばしば現れるように思う。

 

このお話は、拙著「カラダの声を聞く健康学」のメインテーマになった問題。
この本の中では、人間において極端に発達した器官=「大脳皮質」の働きが、交感神経系の作用の意味をネガティブなものに変えてしまう、という立場から解説したわけだけれど・・

それだけじゃなくて、身体構造そのものの中にも、緊張や興奮が、体のパフォーマンスを下げてしまうカラクリが隠れているんじゃないかな・・と、最近そんなことを考えていた。

もう少し具体的にいうと・・・

例えば猫のような動物が、何かに追いたてられて、背中の毛を逆立てて「フゥーー!」っと怒っているとしよう。
このとき、猫の体には、さっき書いた(1)~(5)のような現象が起きていると考えられる。
いや、もしかすると(5)の「頭がカッカする」は人間特有なのかもしれない。そこは保留しておく。
でも(1)~(4)はおそらく、同じようなことが起きているはず。

で、人間の場合、そんなふうに肩に力が入ったり、呼吸が浅くなったりすると、身体的パフォーマンスは確実に低下する。
これは、スポーツ選手の姿を見ればよくわかる。
野球の中継などで、ここ一発という場面で打順が回ってきた選手が、明らかに入れ込みすぎて肩に力が入っていると、バットスイングはかえって鈍くなる。
そんな状態では、クリーンなヒットはまず打てない。
相撲などでも、立ち会い前から力が入りすぎてカッカしているような力士は、たいてい引き技や投げ技で、もろく倒れてしまう。

ところが、猫においてはおそらく、そんなふうに(1)~(4)がそろったときこそが、とっさの逃げ足のダッシュ力が最も発揮される。
いや、これは何か実験によって確認したわけではない。だから本当のところはわかりません。
でも、とっさの逃げ足のダッシュ力を発揮するためのシステムとして交感神経系が発達したのだから、そうならなければおかしい。
猫に限らず、交感神経系という神経システムを持っている動物すべてにおいて、基本的にはそうなるはずだ。

でも人間の体は、交感神経系がガーっと働くと、パフォーマンスが悪くなる。

この違いはどこから来るんだろう???というのが、長年の謎だった。

で・・最近になって、もしかしたらこれは、人間が直立二足歩行になったことで抱えた矛盾なんじゃないか?と思い始めた。

人間以外の哺乳類が広く行っている4足歩行と、人間の2足歩行は、体を動かすメカニクスがかなり違う。

動物が4つ足で立った状態は、とても安定した姿だ。
粘土やプラモデルで模型を作っても、簡単に立つ。
いっぽう、人間の2本足姿は、かなり不安定。プラモデルのフィギュアは簡単に倒れてしまう。

この「簡単に倒れてしまう」不安定さを、人間は体を動かすための動力源として利用している。
進行方向に向かってバランスを崩す(倒れていく)ことで、筋力をあまり使わずに推進力を生み出すという、かなりトリッキーな技術を使って歩いたり走ったりしている。

つまり、「素早く動く」ためには、「素早くバランスを崩す」ことが必用条件になるはずだ。
そして、素早くバランスを崩す上で、肩や胸回りが固く緊張している姿は、好ましい状態とはいえない。
体幹部の筋肉が柔軟に保たれていないと、重心を素早く、滑らかに水平面内で移動させることは難しい。

でも四つ足動物の体は、自然に備わった安定さゆえに、そういう重力由来の推進力のへの依存度が、人間ほどには高くないのかもしれない。
(いやまあ、飛び出す瞬間とか、素早い方向転換では利用しているかもしれない。それについては後で考察する)

じゃあどうしているのか。

猫や犬、テレビで見るチーターやガゼルなどの走る姿を見ると、彼らが前進するときの大きな動力源は、体幹部を反らせては丸める運動から発生しているように見える。

追いつめられた猫が、からだを丸めて「フゥーー!」っとうなっている姿は、この「反らせては、丸める」における、丸める側の姿勢と考えられる。
次に反らせる準備として、丸めていると考えればいいのだろう。

つまり、からだを丸めて緊張させた状態は、四つ足動物においては、次にバーンと弾けるように飛び出すための、最も好ましい準備姿勢のではないか。
だとすれば、交感神経系の働きで肩や胸、お腹などに力が入るのは、むしろとっさのダッシュに備えた、望ましい現象なのかもしれない。

そして、4つ足動物においては、この「反らせては丸める」運動は、呼吸の運動と連動しているという。

4本足の動物が駈けるとき、「反らせては丸める」の1周期につき1呼吸(1回吸って1回吐く)というように、脚の運びと呼吸は完全に連動している。

実際、ほ乳類において呼吸の主動筋である横隔膜は、背中側で大腰筋(後ろ脚を引きつける筋肉)と、筋膜を介して連結している。
だから、からだを丸めて後ろ脚を引きつけたときに息を吸い、大地を蹴ってからだをバーンと伸ばしたときに吐く、という動きが、筋肉的にも連動できるようになっている。

これは逆にいうと、体幹部を「反らせては丸める」動きをダイナミックに行っていれば、呼吸が止まることはない、とも解釈できる。

人間のからだは、からだの運動(例えば走る動き)と呼吸運動が独立している。
だから脚の運びと切り離して呼吸を行うことができるし、息を詰めたまま(呼吸が止まったまま)動くこともできる。
これにより、「歩きながらしゃべる」という人間特有の高度な情報交換が可能になったわけだけれど、一方で、緊張して固まった上半身が、動き始めてもそのまま固まり続けていられるようになった。
他方、4足歩行の動物は、バーンとはじけて走り出せば、息を詰めた状態から自動的に解放される。
だから、パフォーマンスを下げる要因のひとつである「呼吸が浅い」については、心配する必要がないのかもしれない。

そして最後のポイント。

4本足の動物のからだは、直立二足の人間のからだと、重心位置が全く異なっている。
人間が立った状態で、重心は下腹部の内部。臍下3寸から奥まった位置にはいった、いわゆる臍下丹田のあたりが、重心とほぼ一致する。
それに対して、4脚で立つ姿勢において、重心は上半身の中心にある。

静かに立ったとき。4足動物の前脚:後ろ脚の荷重バランスは、6:4ないし7:3ぐらいだという。
別ないい方をすれば、4側動物は基本的に、前脚=立ち足、後ろ脚=けり足という機能分担をしている。

これはつまり、人間において臍下丹田と呼ばれる、体を動かすときの中心点が、4足動物においては上半身(胸部の中心あたりかな?)にあるということだ。

からだも物体なので、動くときは、物理法則から逃れることはできない。
腕を振り回したり、脚を蹴りだしたりするときには、そのパーツの質量に加速度をかけた力が必要になる。
ある速度で動いているパーツにブレーキをかけるときにも、質量×加速度の力が必要になる。

逆にいうと、加速度がかかる質量が少ないほど、小さな力で滑らかに動けるということだ。

そのためには、全身の移動においては重心点=臍下丹田がよけいにぶれないように滑らかに動くこと、からだの姿勢変更や動作においては、体幹部や四肢が丹田を中心点として動くと、効率がいい。
太極拳の熟練者の動きをみると、そういう感じがよくわかると思う。
腰の位置(丹田=重心)が上下動せず、滑るように滑らかに動きながら、常にそこを中心に保つように四肢がバランスよく上下左右に伸びる。
走るときも、丹田の位置が上下にぶれず、下肢は丹田から伸びるように使うと、効率がいい。

この説明は、動きを外から見たときのイメージだけれど、自分のからだをそんなふうに操るには、一種独特の身体感覚が必要にある。
その基本は、「上虚下実」と呼ばれる、丹田にぐっと力がこもって、上半身はぶらぶらに力が抜けた状態。

で、交感神経がガーッと働くと、これとは逆の状態(肩に力が入って下半身の力が抜ける)になってしまう。
それで、、、みんな苦労しているわけだ。

で・・・もし4足動物の丹田に相当するポイントが上半身にあるとすると、彼らは「上虚下実」ではいけないんじゃないのか、と思ったわけ。
上半身に力が入るのは、前足荷重の四つ足動物にとっては、むしろ滑らかに、楽に動くための必要条件になるのかもしれない。

交感神経系がガーッと働くような緊急事態(敵に追いつめられたような状態)では、単にパワーを発揮するだけでなく、動きの巧緻性も必要になる。
精密に、素早く動く必要があるわけだ。
例えばとっさにキュッと動き出すとか、急に方向転換するとか、そういうとき、巧緻性が重要になる。

人間の場合、そういう動きの巧緻性のベースになるのはやはり、バランス移動を操ることがポイントになるように思える。
そのためにはやはり、上虚下実、つまり肩や胸の力が抜けていることが必要条件。

で、四つ足動物においても、急な方向転換においては、筋力だけではなくて、からだのバランスを崩して(重力を利用して)動くというメカニズムが働いている可能性はある・・・というか、たぶん働いているだろう。
ただ、4足動物のからだは、人間と違って、体幹部がほぼ水平になっている。
縦長の人体をどちらの方向に倒すか、という制御と、横長の動物の体をどう倒すか(ないしどちらに向けて舵を切るか)という制御は、メカニズム的にも全く違うだろう。

疾走するチーターなどは、急激に方向転換するとき、しっぽ(尾骨)を横に振ってバランスを変えているという。
体が進行方向に向かって縦長だから、最後部を横に振ることで、バランス(倒れていく方向)を制御できるわけだ。
これは、縦長の人体とは全く異なる制御システムといえる。
そして、こういう身体操作においては・・・たぶん上虚下実はあまり関係ない。

こんなふうに考えてみると・・・

4本足の動物の体においては、交感神経系の働きによって体が(特に上半身が)緊張するのは、そこから素早く動くための準備としてむしろ理にかなっている可能性がある。
ところが、二足直立というからだを400万年ほど前に手に入れた人間という生き物においては、祖先からそのまま引き継いだ交感神経系の作用が、むしろ身体機能(パフォーマンスレベル)を下げることになってしまった。
だから、追い込まれた状況で身体能力を保つには、鍛錬をして平常心とか、上虚下実とか、そういう身体技術を身につけないといけないことになった。。。

と、こんなことを考えてみたんだけれど。
どうだろうね。ストーリーとしてはおもしろいと思うんだけど(笑)