だからやっぱりギブソンが好き

Gibsonの古いギターと、ラグタイム音楽、そしてももクロをこよなく愛するフリー物書き、キタムラのブログ

【マイギブソンその3】丸穴&極厚トップ。“原初的アーチトップギター”「L-4 (1926)」

フラットマンドリンから始まった、ギブソンの歴史。

 

ギブソン社の歩みが始まった1900年代初頭は、音楽シーンにおいても、マンドリンを使った音楽が流行していたのだという。

 

それは、19世紀末〜20世紀のアメリカに、新移民と呼ばれるイタリア系移民が多数、入ってきたこととも関連しているそうだ。

 

彼らが新大陸に持ち込んだマンドリンという楽器(そしてそれを使った音楽)が、新天地においてフラットマンドリンという新しい楽器を生み、その音色が、ラグタイムやブルース、あるいはカントリーといったアメリカンスタイルの音楽を作り出していく。

 

おそらく1920年あたりまでは、ギブソンはその流れに乗って、マンドリンメーカーとして順調な歩みを続けていたのだろう。

 

だが、時が進むにつれて、音楽シーンの主役楽器は、マンドリンからギターへとシフトしていく。

 

それにつれギブソンは、それまではおそらくマンドリンの“添え物”ぐらいの位置付けでしかなかったギターを、主力商品へとシフトさせる方向へと、舵を切った。

主役の座が入れ替わるのは、おそらく1930年あたりだろう。

 

 

30年代後半〜40年代ぐらいになると、ギブソンは、ライバルのマーチン社のギターにも負けないような高いクオリティーと、のちのギブソンらしさにつながるユニークな個性を備えたギターを、次々と発表していく。
僕が思うに、このころが、ギブソンアコースティックギターの黄金期だ。

 

で、、、、ただ、そこより少し前の1910〜20年代あたりは、様相が全く違う。

このころのギブソンは、なかなかに摩訶不思議で理解不能な、現代のギターとはかけ離れたスタイルのギターを、多数、作っているのだ。

 

まあ、過渡期なんだろう。

 

マンドリンメーカーとして培った技術を、より大きなボディを持つギターという楽器の製作に転用して、どんなものを作れるか試行錯誤していた、そんな感じ。

この時代、そもそも、まだ鉄弦ギターは出始めたばかり。
ガット弦ギター製作のバックグラウンドを持つマーチン社が、その技術を利用して鉄弦ギターを作り始めたのが1920年頃だという。

で、、、マーチンはその時点ですでに、現代のアコースティックギターへつながる、かなりモダンな仕上がりの楽器を作り始めているように見えるのに対して、ギブソンはいろいろと突飛なスタイルを試しては取りやめ、また別のを試して、、といった経路を通っているように見える。

 

で、、その試したものの多くは、、、のちにそんな形のギターは残っていない。

まあ、要は、失敗作。

進化の途上で消えて化石しか残っていないカンブリア紀の生き物みたいに、多様なスタイルがいろいろ生まれたけれど、その大半は消えていった。

 

まあ、そこが面白いんだよね(笑)

 

で、、そんなギターの代表格といえば、「マイギブソン」シリーズのその1で紹介した、Style 0 Artistなのである。が。。

 

でも、それだけじゃないんです。他にも面白い奴がある。(我が家にはなぜかそんなのが揃っている、笑)

 

というわけで、、、前置きが長くなったが、今回の主役はこれ。

Gibson L-4(1926)」だ。

 

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L-4という名前のギターは、1910年代から作られはじめ、かなり最近まで(もしかしたら今も?)製造されている。

ただ、同じ名前とは思えないほど、その形や構造は大きな変遷を辿っている。
最終的には、F穴アーチトップのフルアコになった。

我が家にあるのは1926年製で、かなり初期のスタイルといっていい。

サウンドホールは丸穴だが、これはアーチトップギター。単板を削って作られた表面板は、全体として緩やかな凸曲面になっている。その曲面は縁に行くと滑らかに凹状カーブへと転じる。製作技術の高さをうかがわせる見事な作りだ。

 

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弦のエンド側は、通常のアコースティックギター(フラットトップギター)のように表面板上のブリッジに取り付けるのではなく、ブランコ式のテールピースを介してエンドブロックあたりに接続されている。ブリッジは弦の張力によって抑えられているだけで、接着はされていない。

・・・というこの構造は、フラットマンドリンやバイオリン族楽器と共通だ。

その後、現代のアーチトップギターも、概ねこれと同様の構造を踏襲している。
そういう意味では、このギターはアーチトップギターの祖先、という位置付けで間違いないだろう。

ただし、現代のアーチトップギターはほとんどエレキギターフルアコ)だが、このL-4はピックアップなしのアコースティックである。

そして、、現代のギターではまず考えられないような特徴もある。

 

アーチトップで丸穴サウンドホールというのも今では珍しいが、それ以上に「ありえない!」って思うのが、トップ板の厚さ。

ノギスで測ると、なんと8ミリ以上もあるのだ!

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そしてもう一つは、ネックジョイント位置。
ネックとボディの接合ラインが、11フレット半あたりにある(笑)

 

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この、12フレットポジションからフレット半分出っ張ったボディのせいで、ハモニクスとか、ハイポジションが、実に、弾きにくい。

困ったものだ、誰がどんな意図で、こんなことをしたんだろう。本当にもう(苦笑)

 

で、、肝心の音は、というと。

 

まあ、大まかな分類でいえば、アーチトップの音であろう。

いわゆるピックギター的な感じに、近い、かな。

でも、ベース音のベケベケした感じとかは、かなり独特だと思う。

SP盤で聞こえるギターサウンドみたいだ。

 

スウィンギーな曲を弾いてみたので、聞いてみて。

 

youtu.be

 

上に書いたような11フレット半問題とか、ネック調整が行き届いてないとか、いろんな理由で、ハイポジションを弾くのが結構きついんだけど、そこはまあ、大目に見ておくれ。