【マイギブソンその1】音もスタイルもマンドリンのような超個性派「Style 0 artist 1920」
Gibsonが楽器メーカーとして創業したのは、1902年とされている。
だが、その本当の出発点は、世紀の境目をまたいで遡った1894年。
この年、Gibsonというブランド名の由来にあたる人物、オーヴィル・ヘンリー・ギブソン氏が、自宅併設の工房で、マンドリン製作を始めたのだという。
ギブソン氏の初期の工房とされる写真が残っている。
こちらの記事より
これより前の時代、マンドリンという楽器は、背面がボウル状のもの(現在はクラシックマンドリンと呼ばれているタイプのもの)しかなかった。
こんなやつね
よりアタッキーで粒立ちの良い音色を求めたギブソン氏が、バイオリンの構造を参考に、新しいスタイルのマンドリンを発明。これが「フラットマンドリン」の始まりだ。
そして、その新しいマンドリンが非常に好評だったため、自宅併設の工房では生産が追いつかなくなる。
そこで、製作・販売のための会社を作った、という流れだという。
つまり、ギブソン社の原点は、ギターよりも、マンドリン。
実際、創業当時の会社名は、「the Gibson Mandolin-Guitar Mfg. Co, Ltd. 」と、マンドリンという単語の方が、先に置かれている。
先ほどのギブソン氏の工房の写真を見返してみよう。
ここにはギターもある。でも、主役はやはり、マンドリンだ。
左端のギターなどは、トップ板の縁の曲面(たぶん厚板から削り出して作ったと思われる)の感じが、マンドリンによく似ている。
弦が6本あるからギターなのだけど、構造的にはむしろマンドリンに近いように見える。
、、と、、ここの部分が、ギブソンギターの個性(のルーツ)を理解する上で、とても大事なポイントだ。
創業当時、ギブソン社の主力商品は、マンドリン。
ギターも作っていたけれど、その製作には、マンドリンの製法や技術がかなり転用されていたのである。
これは、この当時すでにアコースティックギターのトップメーカーだったMartin社のギターと好対照である。
Martinはもとからギターメーカーだ。19世紀半ばから、ガットギター(今でいうクラシックギター)を作っていた。
そして、その製造技術を流用して、鉄弦ギターも作り始めた。
だからその根底には、伝統的なギターの製法がしっかりと根付いている。
対して、Gibsonのルーツは、マンドリン。
しかも、フラットマンドリンという、全く新しく開発された楽器が、そのルーツ。
そもそもの精神が革新的なのである。
その革新的な製法で、ギターも作っちゃった、という遊び心が、ギターづくりの始まりなのだ。
ギブソン社の極めて初期(1908〜1923)に製造されていた、Style 0 Artistというモデルがある。
ショルダーの部分に据えられた巨大なスクロール(渦巻き上の飾り構造)が非常に印象的。
スクロールといえばF型マンドリンにも付いているけど、こいつのやつはあれより数倍はでかい。
このギターなんかは、スタイル、音色ともに、ギターよりもマンドリンに近いのである。
弦が6本だから演奏上はギターなのだけれど、音はマンドリン的。
だから、ギター用の曲を弾いても、なんだか雰囲気が違う。
うちに1本あるんだけど(笑)、こんな音だ。
高音のコリっと粒立つ感じは、まるでマンドリン。
ベースの「ボーン」っていう響きは、ギターよりもマンドチェロのようだ。
このギターは1923年に製造中止になっている。
たぶん、世の中がギターに求める音色がこういうのとは違う方向へシフトして、こいつはいかにも時代遅れな楽器になってしまったんだろう。
ギブソンが作るギターの音も、この後、どんどん変化していく。
そして現代では、他のメーカーのギターとあまり違わない音になってしまった。
でも1960年代ぐらいまでは、本当に独特の、唯一無二のサウンドだったのだ。
その原点を遡っていくと、このマンドリンお化けみたいな不思議なサウンドにたどり着く。
そう、要は、僕は、こんな感じの音色が大好きなのだ。
たぶん1世紀ほど時代遅れなんだな(笑)。