だからやっぱりギブソンが好き

Gibsonの古いギターと、ラグタイム音楽、そしてももクロをこよなく愛するフリー物書き、キタムラのブログ

【マイギブソンその4】アーチの音がするフラットトップギター「Nick Lucas Special」(1934~38)

現在、「アコースティックギター」といえば、大抵の人が、フラットトップ、いわゆるフォークギターのようなスタイルのギターを思い浮かべることだろう。

表面板が真っ平らで、真ん中に丸い穴(サウンドホール)が空いている。

 

弦の端を止めるブリッジは、トップ板上に接着されている。

 

ギターショップに行っても、「アコギコーナー」にあるのは、ほとんどそういうスタイルのギターだ。

 

ただし、歴史的に見ると、ギター=フラットトップという構図が、初めからあったわけではない。特にギブソン社においては、フラットトップはむしろ後発だ。

 

ギブソンは、もともとフラットマンドリンを開発した会社。

 

マンドリン製作のノウハウを応用して作られたと思われる初期のギブソンギターは、バイオリンやフラットマンドリン同様、トップ板は曲面になっていた。そのトップの上に載せたブリッジはボディと接着せず、弦のテンションでトップに密着させるという構造を採用していた。

 

こういうスタイルのギターは、アーチトップギターと呼ばれる。

 

フラットトップに対して、アーチトップ。

 

この構造は、もともとはバイオリン属の楽器の仕組みを写し取ったものだ。現代でも、主にジャズに使われるようなアーチトップギターでは、こういう構造が採用されている。

 

ただ、現代のアーチトップは、ほとんどがエレキギターだ(エレギの分類ではフルアコと呼ばれる)。サウンドホールはたいてい、バイオリンに似たf状。

 

これに対して、初期ギブソンのアーチトップは、アコースティック楽器。単板を削って作った分厚い曲面トップ板の中央部に、円形ないし楕円形のサウンドホールがあいている。

 

このシリーズですでに紹介したStyle 0 と L-4 が、その代表例。ギブソンが、その歴史の最初期につくっていたのは、主にこんなスタイルのアーチトップギターなのだ。

 

さて一方、ガットギター(クラシックギター、フラメンコギターなど)においては、古くから、真っ平らなトップ板の上にブリッジを接着し、そこに弦の一端を固定する、という今のフォークギターと同様の構造が採用されてきた。

 

だから、ガットギター製作にルーツを持つマーチン社のギターは、スチール弦を使い始めた20世紀初頭から、現代のフォークギターとほぼ同じ構造=フラットトップ、固定ブリッジ、ブリッジに弦を固定、という方式を採用している。

 

ということで、、

 

1920年ぐらいまでのアメリカのモダン楽器マーケットにおいては、ギブソン社が作るアーチトップのギターと、マーチン社などが作るフラットトップのギターが、共存していた、ということになるようだ。

 

その当時の楽器は現代にも残っていて、ビンテージショップなどで実際に弾いてみることも可能だ。

僕がいろいろ弾いてみた印象では、、

 

その当時から、フラットトップはたいていフラットトップの音が、アーチトップはたいていアーチトップの音がする。

 

まあ、、当たり前の感想だわな(笑)

 

※あ、でも、ここの部分は、記事の最後の結論で出てくる大事なポイントと重なってるので、ちょっと覚えておいてね。

 

アコースティックの(エレキじゃない)アーチトップギターって、今どきはあまり見かけないし、弾いたことがない人も多いと思うけど、、

フラットトップとは、音色が根本的に異なる。

 

倍音とサステインが少なく、ザクザク、ジャキジャキ、っという切れ上がりの良い響き。

音色的には、ハイとローが少なくて、中音域にぎゅっと詰まったような、密度感のある感じが典型的。

 

マーチンに代表されるような、いわゆるフォークギター的な音とは、かなり趣きが異なる。

 

で、、、だ。

 

1920年代から30年代にかけて、アメリカの音楽トレンドが動いていく中で、、

それまで人気を博していたマンドリンが下火になり、ギターが音楽シーンの主役になっていったという。

 

その時、世間から受け入れられたのは、どうやらマーチン的なフラットトップギターだったようだ。

 

なので、マンドリンとアーチトップギターでやってきたギブソン社も、フラットトップを作る必要が出てきた、、、

 

ということで、1930年前後から、ギブソン製のフラットトップギターというのもが、ぼちぼちと登場してくる。

 

そんな、ギブソン社フラットトップ黎明期のギターが、我が家にも1本ある。

 

Gibson Nick Lucas Special(1934~38)だ。

 

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L-00などと同様のスモールボディ。もともとはロバート・ジョンソンL-1あたりで採用されていたクラスのボディなのだろう。

ただし、L-00などと違って、胴厚は驚くほど厚い。のちに登場するJ-200や、マーチン・ドレッドノートに匹敵するほどの厚みなのである。

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サイド/バックの材はメイプル。トラ目がお見事ですな。

ギブソン社は伝統的に、サイド/バック材としてメイプルを使った音作りが非常にうまいと、僕は感じている。

それは、もともとの主軸製品であるマンドリン&アーチトップギターで、メープルを使うことが非常に多いことと、おそらく関連しているだろう。


彼らの楽器づくりの大元となるノウハウは、もともと、メイプル材を使って培われたものなのだ。

 

この楽器の名前になっている「Nick Lucas」というのは、当時の人気シンガー/ギタリスト。YouTubeでこの名前を検索すればいろいろ動画が出てくるので、気になる人はチェックしてみて。ジャジーにスウィングしながらムーディな歌を弾き語るおじさんが出てくるはずだ。

 

彼が、ニック・ルーカスさん。

 

彼が手にしているのは、まさに我が家のこの楽器と同じ機種だ。

そう、このギターは、今でいうところのエンドースモデル。人気アーティストの意向に沿って楽器を開発し、その名前を冠して発売するという手法を世界で最初に採用したのが、このNick Lucasモデルだったと言われている。

 

だから、このギターの内部には、ニックさんのイラスト入りラベルが燦然と輝いている。

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ちなみに、某ビンテージショップで伝え聞いた話によると、、

このギターの製造が決まった時、製造予定本数に合わせてラベルを一気に印刷し、シリアルナンバーも最初に全部、印字してしまったらしい。

その後、できたギターに、すでにシリアルが入ったラベルを貼っていった、、

 

なので、このモデルに関しては、ラベルのシリアルが読み取れる状態で残っていたとしても、そのナンバーは製造年を示す手がかりとしてほとんど意味をなさないという。

 

ということで、、、その他の特徴、例えば各種装飾とか、サンバーストの面積の大きさとかを頼りに製造年を類推するしかなく、、、

 

「1934~38のどこかで作られたと思われる」と見積もられている。

 

この辺りは、シリアル管理が厳密で、ナンバーを見れば製造年月日がピタリとわかるマーチンのギターと対照的である。

 

まあ、ギブソン好きとしては、そういう適当さも含めて、やっぱギブソンいいよな〜ってなるわけだけれど。笑

 

ちなみに34年より前には、マホガニーサイドバックのNick Lucasモデルが作られていて、そちらは12フレットジョイントが多いようだ。

また、ごく稀にブラジリアンローズウッドのNick Lucasモデルもあるという。

 

製造本数も正確なところは不明だが、限定生産的な高級機種だったようで、総数でも数十本程度だったらしい、という話を聞いたことがある。

 

まあ、、かなり貴重なものなのは確かである。

 

で、、、肝心の、音ですね。

 

非常に興味深いことに、、、

 

このギターの音色は、かなりアーチトップっぽい特徴を備えている。

 

高音域の倍音が少なくて、「パコーン」と響く感じとか。

https://youtu.be/ki0LMck4HwA


Tennessee Waltz : Gibson Nick Lucas Special (1934~38) / masahi Kitamura. テネシーワルツ ソロギター


ね、、今どきの普通のギターとは、なんとなく違うでしょ。

記事の前の方で、「フラットトップの音、アーチトップの音」の説明をしたけど、このギターは、フラットトップであるにも関わらず、アーチトップの“残り香”みたいなものが、強く感じられるのだ。

たぶん、それまでアーチトップばかり作ってきたギブソンだから、トップをフラットにしても、つい、こんな音になってしまったのだろう。

 

こういうのも、初期ギブソンサウンドの特徴なんだろう、と思ってます。はい。