だからやっぱりギブソンが好き

Gibsonの古いギターと、ラグタイム音楽、そしてももクロをこよなく愛するフリー物書き、キタムラのブログ

【マイギブソンその5】Gibsonフラットトップの最高峰「Advanced Jumbo」(1939)

1930年代、アコースティクギターは大型モデルの時代に突入した。

先鞭をつけたのは、Martin社。1916年からOEM生産で作っていたドレッドノートと呼ばれる巨大ボディのギターを、1931年から自社製品としてリニューアル生産。

D-1(マホガニー)、D-2(ローズウッド)と名付けられた2種のギターは、のちにD-18、D-28へと名前を変え、現代に至るまでアコースティックギターを代表する2つのモデルとして、作り続けられている。

大きなボディが発する低音部が豊かなサウンドは、ボーカル伴奏や楽器アンサンブルのかなめを引き締めるのにマッチする。
ドレッドノートギターは、パーラーサイズギターのサウンドに飽き足らなかったミュージシャン達を虜にし、D-18とD-28は飛ぶように売れたという。

そうなると、、、Gibsonとしても、指をくわえているわけにはいかない。

1934年、Gibsonは、ドレッドノートに匹敵するサイズのギターを世に送り出した。

名前はズバリ「Jumbo」。

今でいうラウンドショルダージャンボサイズのマホガニーボディ。
トップ、バック、さらにはサイドにまでサンバーストが施された塗装。
わずか2年しか作られなかったこのモデルは、素晴らしい楽器だったという。

ただ、大恐慌直後のアメリカでセールスを上げるには、値段が高すぎた(60ドル)。


そこでGibsonは、Martin同様の、2機種体制を目論む。

マホガニーボディ、シンプルな外観でリーズナブルな価格帯のモデルと、より高級感のあるローズウッドを採用した、ハイエンドのモデルだ。

1936年、2つの新しいモデルが登場した。

リーズナブルな方のニューモデルは、J-35。これは、Jumboの装飾をシンプルにして35ドルに値下げしたもの、と言ってほぼ差し支えない。
のちに45ドルに値上げされてJ-45と改称され、その後、現在に至るまでGibsonアコギの代表機種として作り続けられている。

そして、ハイエンドの方のモデルが、このAdvanced Jumboだ。

f:id:sugoikarada:20200507194927j:plain


ローズウッド製の大きなボディと、ロングスケール。ヘッドや指板を飾る、ファンシーなインレイ。

明らかに、D-28を意識したプロフィールであろう。

我が家にあるこの1本は、1939年製。

f:id:sugoikarada:20200507195033j:plain


AJの製造がストップされた年である。(出荷のラストイヤーは1940年)

製造期間わずか3年。生産本数は300本に届かない。

まあ、、端的に言えば、セールス競争ではD-28に歯が立たなかったのだろう。

80ドルという、当時としては相当強気な値付けが、裏目に出たようだ。


ただ、、楽器としてのクオリティーは負けていないと、個人的には思っている。

D-28とAJ、楽器の方向性は全く違う。

ボディサイズやスケール、素材(ローズウッド)などはだいたい一緒なのに、音は全然違う。

AJは、「これぞGibsonサウンド」って感じだ。

現在、ギブソンを代表する機種といえば、J-45、J-200、それにハミングバードあたりだろうか。

どれも、ザクザク、ゴキゴキした男気溢れるサウンドのイメージがあるだろう。

その音の原点が、ここにある。


Windy & Warm / Gibson Advanced Jumbo (1939) / Masahi Kitamura

 

現代のGibsonへ繋がるサウンドの起点であり、技術的な頂点を極めた戦前ギブソンの象徴でもある。

Advanced Jumboは、そんなギターだ。