【シリーズエッセイ】カラダにまつわる数字のリアリティー その5「体脂肪率が示すもの」

さて、「カラダにまつわる数字」ということでシリーズエッセイを書いていますが・・・

皆さんにとって、最も馴染み深い「カラダにまつわる数字」って、何でしょうか?

 

細胞の総数や、DNAの長さなどは、数値を聞くと「へーっ」「すごーい」って思いますが、この種の数字はやっぱり、なかなか腑に落ちにくいというか、実感しにくい面があるかもしれません。

 

なぜならば、これらの数値は、指で数えたり、ものさしを当てるといった実感を伴う方法で測ることが出来ないからです。

 

じゃあ、自分で日常的に測れる身近な数値なら、もっと実感が湧くかな?

 

・・・という発想でいくと、

 

はい、ひとつとっても身近なやつがありました。たいていの家庭に測定装置があるもの。

 

それは「体重」です。

 

そして、いまどきの体重計にはほぼデフォルトで体脂肪計も付いているので、「体脂肪率」も、体重に匹敵するぐらいおなじみの数値といえるかもしれません。

 

ちなみに、、この「体脂肪率」という言葉、僕は個人的にちょっとブルーな思い出があります。

 

 

もう20年以上前の話。

当時僕は、某雑誌社の編集者で、新しい健康雑誌を立ち上げるプロジェクトに参加していました。1996〜1998ころです。

 

そのころ、巷の健康情報業界で、ちょっと話題になっていたキーワードに、「かくれ肥満」というのがありました。

「かくれ◯◯」っていう言い回しはその後、いろいろなネタに使い回されていますが(かくれ高血圧とか、かくれ脱水とか)、その走りともいえるのが、これです。

 

かくれ肥満とは、、、

・身長と体重から求める体格指数(BMI)では、肥満ではない

・見た目もせいぜいちょっとぽっちゃり程度で、太ってはいない。

・でも、健康を損なう体脂肪はたっぷり身につけている

といった状態のこと。

 

要は、体脂肪率が高いってことですね。

 

いまでこそ「一家に1台」並みに普及した体脂肪計ですが、この頃はまだ、一般向けの健康器具としては、ようやく広まり始めた頃。

その「ようやく広まり始めた」体脂肪率という概念を手がかりに、見た目だけではわかりにくい健康リスクを見つけよう、という狙いで、「かくれ肥満」という言葉が言われ始めたわけです。

これは面白い、、ということで、
さっそく、創刊準備号の記事ラインナップにこのネタを突っ込むべく、企画書を書いて会議に提案しました。

 

自分としてはなかなか面白いネタだと思ったのですが、、

編集長からこんなツッコミが入りました。

 

「おい、体脂肪率なんていう言葉は専門的すぎて、普通の人はまだ、知らんのじゃないか?」

 

えー、、そうかなぁ、、結構広まってると思うけどなぁ、、

 

って思ったんだけど、まあ編集長にそんなふうに言われたんじゃあしょうがない、か、

 

、、というわけで、この企画は最終的に、「かくれ肥満」のことを伝えるものの、「体脂肪率」という言葉はあまり前面に押し出さない、という、いかにも中途半端な形になってしまったのでした。はい。

 

いやまあ、、僕は別に、当時の編集長に恨み言を言いたいわけじゃなくて、、、(といいつつ、言ってるんだけどさ、、笑)

 

要は、たかだか20年もさかのぼれば、「体脂肪率」という言葉はまだ、そんな程度の存在感だった、ということなのです。

 

それが今や、カラダにまつわる数字のなかでも、もっとも身近なものの一つにあげられるほどに。

 

いやぁ、世の中、変わるものですわ。

 

・・・と、、まあ、昔話はそれぐらいにして。

 

体重と、体脂肪率。この二つの数値は、ごくシンプルな関係で繋がっています。

 

例えば体重が60キロだとします。で、体脂肪率が20%。

 

この「20%」という割合は、重量比です。体積比やモル比じゃなくて、重量比。

なので、、

 

60(キロ)×0.2=12(キロ)

 

これが、体内の脂肪の重量。

 

はい、、とってもシンプルですね。

 

体脂肪率が20%だった場合、体重60キロのあなたのカラダの中には、12キロの脂肪が含まれているわけです。

 

※ここからしばらく話は横道へ・・・

 

ちなみに、人間のカラダを作っている主な素材は、「水」「脂肪」「たんぱく質」「ミネラル」などで・・

体重に占める大まかな比率は、

水 60%

タンパク質 15〜20%

脂肪 15〜20% ← これが体脂肪率のこと!

ミネラル 5%

ってとこです。もちろん個人差は大きいですが。
(ミネラルは微量成分じゃねーの?って思ったあなたは、骨の重さの大部分がカルシウムであることを思い出してください)

ここで注目すべきポイントは、3大栄養素の一つ「炭水化物」(糖質)がこの中に見当たらないことでしょうね。
人体内にはもちろん、血液中の血糖や、肝臓・筋肉などのグリコーゲンといった炭水化物が存在しています。でもその総量は、ここに挙げた4種類の素材と比べると、はるかに少ないです(体重の1〜2%程度)。

これは、動物全般にあてはまる特徴です。

動物は、エネルギー備蓄素材として、炭水化物ではなくて脂肪を使うやり方を選んだ生き物なので、体内の炭水化物総量は、さほど多くないのです。

一方、植物は、カラダの構造体やエネルギー備蓄素材として、炭水化物をふんだんに利用しています(備蓄成分としてはでんぷん、構造体はセルロースなどの食物繊維が代表例)。だから脂質より、炭水化物の方がずっと多い。

なので、、、食材としてみた場合は、植物性の食品はおおむね低脂肪、それに対して動物性は高脂肪ってことになるわけです。

 

※はい、横道はここまで。脂肪に戻ります。

 

12キロの「脂肪」って言われたとき、おそらくほとんどの人は、「皮下脂肪」や「内臓脂肪」などの脂肪組織のことを思い出すでしょう。

脇腹あたりの贅肉をちょっとつまみながら、「あーこんな奴が12キロもついてるのね、まったく!」みたいな気分になる、かもしれません。

 

脂肪組織の比重は約0.9なので、「12キロの脂肪組織」の体積は、

 

12÷0.9=13.3リットル。


一升瓶7本分を超えます。

 

確かに、この数字からイメージすると、そんなにあるのか? って、ちょっとギョッとしますね。

 

でも、、、

 

カラダに含まれる脂肪は、脂肪組織だけじゃありません。

もっと根源的な、生命現象の根幹に関わる重要な働きを担っているところに、大量の脂肪が使われています。

 

それは、「細胞膜」です。

 

このシリーズで何度も触れている通り、人体は約37兆個の細胞でできています。

一つ一つの細胞は、10〜数十ミクロン程度のごく小さな袋。この袋を形成する膜の主成分が、脂肪なのです。

 

人体だけではありません。バクテリア酵母、菌類、昆虫、動植物など、あらゆる生物のカラダは細胞でできており、それを包む膜は、脂肪でできています。

さらに、「ミトコンドリア」「核」「小胞体」といった細胞内の小器官も「膜」でできており、その主成分はやはり、脂肪です。

 

この地球上に、もし脂肪がなければ、生命は誕生し得なかったはず。

それぐらい、脂肪は命の根源に関わっている成分なのです。

 

では、膜の分の脂肪量がどのくらいあるのか、ざっと計算してみましょう。

 

まずは細胞膜。計算しやすいように、細胞の平均的な大きさとして、一辺10ミクロンの立方体と仮定します。

すると細胞1個あたりの膜の面積は、10×10×6(平方ミクロン)。平方メートルに直すと、6×10のマイナス10乗(平方メートル)です。

これに37兆をかけると、、、2.2×10の4乗(平方メートル)。これが全身の細胞膜の総面積ですね。

 

次に、ミトコンドリア。これは一辺1ミクロンの立方体と仮定して、細胞1個の中に平均100個あると仮定します。まあ、たぶんそんなもんでしょう。

これで、さっきと同じ計算をすると、ミトコンドリアの表面積の全身合算は2.2×10の4乗平方メートルとなります。
細かく言うと、ミトコンドリアは内膜と外膜という2層膜構造になってるので、膜面積もその倍はあるはずじゃない? ということで、4.4×10の4乗平方メートル。
さらに、ミトコンドリア以外の小器官、核とか小胞体とかゴルジ体とか、ノーベル賞で有名になったオートファジーのオートファゴソームとか、そういうのがどのくらいあるかと、、これはもう皆目見当がつかないのですけど、まあ非常にざっくりとした見積もりで、ミトコンドリアの表面積とだいたい同じぐらいじゃないかなぁ、、と、、だとすれば、2×10の4乗ぐらい。

有効数字の桁が2桁から1桁に減りましたが、そのへんはまあ、見積もりの大雑把さが一気に加速したことを踏まえて(笑)、加減した感じです。

で、これらを全部合算しますと、、、
8〜9×10の4乗=80000〜90000平方メートル、という数値が出てきます。

 

これって、どのくらいの大きさ?

 

こういった「面積」モノのサイズの基準としてよく出てくるのが、「東京ドーム何個分」っていう表記です。

そのあたりの数字は、ググればすぐに出てきます。
wikiのページ 東京ドーム (単位) - Wikipediaによれば、

東京ドームの建築面積は、46,755m2 

グラウンド部分だけに限るなら、13,000m2、

だそうです。

つまり、人体一人分に含まれる細胞膜と細胞内小器官膜を合算した膜の総面積は、東京ドームの建築面積より広い、ということらしい。

 

で、、、細胞膜の厚さは10ナノメートルほど(10のマイナス8乗メートル)なので、これを乗じると、膜の総体積が出てきます。

答えは、8〜9×10のマイナス4乗立方メートル。

1リットル弱、ってところですか。

比重を0.9とするなら、700〜800グラムぐらい。

 

うーむ、なるほど〜


記事の前半で、体内の脂肪の総量は「一升瓶7本分を超える程度」と書きました。

そのうち、一升瓶の半分ぐらいが膜の分、ということのようです。

割合でいうなら、体脂肪のうちの6〜7%ぐらい。

 

これって多いのか、少ないのか。。

なんとも言いにくい中途半端な量です(笑)

 

記事を書く立場としては、膜の分がもっと大きな数値になってくれた方が(例えば膜だけで5キロぐらいある、とかね)派手に書きやすかったのですけど、まあ、こればっかりは仕方がない。

 

まあでも、、、1リットル弱でも、無視できないポーションだとは思います。

 

「体脂肪」というと、つい「減らすこと」ばかりに目を向けたくなるものですが、その中にはこれぐらい「膜」も含まれているのだ、と思うと、、、

 

体脂肪率という数字の見え方も、多少、違ってくるかもしれませんね。