だからやっぱりギブソンが好き

Gibsonの古いギターと、ラグタイム音楽、そしてももクロをこよなく愛するフリー物書き、キタムラのブログ

【ももクロ考その5】飛躍するために必要なこと(今日の話はあんまりももクロじゃない)

いつもご愛読ありがとうございます。

 

昨日アップした「どうやって壁を突き破るのか」の話はいかがでしたか。

 

ももクロ玉井詩織さんの「覚醒」を題材に、自分の行動にブレーキをかけている、心の中の「壁」を見つけ、それを突き破っていこう・・・という、とても前向きで夢のある話でした。

 

で、、、今日は早速ですが、その夢をがしゃんと壊してみたいと思います(笑)

 

「え~~~っ!」っていう声が聞こえそうですが。

 

これ、どっかできちんと書いてみたい話だと、前から思っていたので。

 

多分、今日がその日ではないかと。

 

どういうことかと言いますと、、、僕ら一般の人が「心理学」というものに期待しているものって、どうも虫が良すぎる部分があると思うのですね。

 

 

本や雑誌にさらっと目を通して、ちょっとしたハウツーみたいなものを覚えれば、それであらびっくり、人間関係がウソみたいにスムーズに行くとか、心の中のうつうつやイライラがきれいさっぱり消えて無くなるとか、、、

 

まあ、こんなふうに書かれれば、大人の常識で誰でもわかると思いますが。

 

そんな虫のいい話は、ありません。

 

だけど、、、ちょっと気の利いた言い回しで心の仕組みとかをうまいこと説明されて、「そうか、そういうことだったのか!」っていう納得感が高まると、、つい、それで問題が全部解決したような気になってしまう。そういうことが、心の話では起きやすいように思うんです。

 

昨日の話で言いますと、、

 

自分の心の中に、自分で作った壁(枠組み)がある

アドラー心理学ではそれを「ライフスタイル」と呼ぶ)

それが、自分の可能性ややる気にブレーキをかけている

玉井さんは、坂崎さんの言葉でその枠が外れた(頭が切り替えられた)

同じことを自力でやるにはどうすればいい?

自分の感情に注目してみよう!

 

・・といった感じで、きれいな道筋が見えています。

 

だから、これをすれば自分も「飛躍」できる! と、そんなふうに思えるわけですね。

 

※まあ、そう思えるように書いたのは私ですから、皆さんがそう思ったとすればその責任の一端は私にもあるわけですが・・・まあ、それはともかく・・・(笑)

 

ですが、、、実際には、これだけではまだ、道半ば。

自分の心の中の仕組みが分かったからといって、それでスッキリ生まれ変われるわけではありません。

 

これ、心の話だとちょっとわかりにくいかもしれないので、体の話に置き換えてみたいと思います。

 

あるところに、お腹の脂肪が溜まりすぎてメタボの入り口にさしかかった人がいました。

健診で何か引っかかって、お医者さんから「やせなきゃダメですよ」とか言われちゃったわけです。

 

まあ、やせたほうがいいことは、自分でもよくわかってる。

 

それで書店に行ってダイエットの本を探しました。

 

手に取ったのは、「レコーディングダイエット」という本。自分が食べたものをすべて日記形式で書き上げていく方法です。

 

早速、始めました。

 

1週間後、手帳のメモを見返して、「おおっ!」って驚きました。

 

なんと7日間のうち、5日もランチでラーメンを食べていたのです。しかもとんこつコッテリ系の脂ぎったやつ。うち3日は餃子も付けて。

 

さらに、仕事の合間には、コンビニで買ったお菓子もずいぶん食べていました。

 

普段はさほど意識せずに食べたいものを食べていたので、こんなに食べているなんて、気付いていなかったのです。

 

「そうか、、、これじゃあ太るよなぁ・・・」

 

納得がいきました。目から鱗が落ちた気分です。

 

・・・・

 

はい、いかがでしょう。

 

この人が、やせるための大事な第一歩を踏み出したことは確かです。そういう意味ではもちろん、食事記録をとってよかった。

 

でも、、「原因」に気づいたからといって、やせたわけじゃありません。

 

原因を踏まえて、なんらかの「行動」(ラーメンの回数を減らすとか、お菓子をやめるとか)をしないと、体脂肪は減りません。当たり前ですね。

 

同じことが、心の話にも言えます。

 

「そっか、こんなふうにブレーキをかけていたんだ」と、自分の心の有り方に気づくのは、前に進むための大事な一歩。

 

でも、それで壁を破るプロセスが完結したわけではない。

 

大事なのは、その後の「行動」です。

 

ダイエットの場合は、「体脂肪」という実体があるので、そのことを感覚的に理解しやすいのです。「あーそうか!」って気づいたときに落ちたのは、目の中の鱗であって、お腹周りの脂肪ではない。脂肪を落とすには、そのあとの日々の実践が必須です。

 

ですが、心の話の場合、相手にしているのは「心の中の枠」とか「思い込み」といった目に見えないものなので、外れたかどうかが脂肪のようには見えない。

だから、「そうか、こうやってブレーキをかけていたんだ!」と気づいたときの瞬間的な晴れ晴れ感(目から鱗が落ちた実感)で、全部落ちたような気がしてしまう。

 

そういうことが、心の話では、起きやすいと思うのです。

 

でも実際には、いままでは壁が邪魔をして踏み込めなかった行動をしっかりこなすことで、本当の意味で壁を破れるわけです。

 

玉井さんの場合なら、ボイストレーニングとか、課題曲をどれぐらい練習するかとか、そういうことを、いままでとは違うレベルでこなしたのだと思います。だから、あれだけの歌が歌えた。

そりゃあそうですよね。そうじゃないはずがない。

 

「そっか、自分でブレーキをかけてたんだ」と気づくのは、あくまでも、その先の行動に向けた意欲付けの一環です。

 

大事なのは、行動すること。

 

これ、アドラー心理学のとても大事なメッセージです。

 

アドラー系以外の心理学は、どちらかというと、心の分析に重きを置きます。「自分の心がなぜこうなっているのか」を解明するために、いろいろな要素に分けたり、さかのぼって因果関係を調べたりするわけです。

 

それらが無意味とは言いません。アドラー心理学の中にもライフスタイル分析という部分があり、やっていることは大まかに言えば似たようなことでしょう。

 

でもアドラー流のアプローチは、分析的なことをする場合でも、それはあくまでも行動を起こすため。目的は、行動することです。

そこに、大きな特徴があります。

 

心の中の原因分析ばかりに突き進んでしまうと、あまり嬉しくないことが起きやすくなります。その代表例が、「誰かを責める」という行動です。

 

例えば、「自分が今、こんなに苦しいのは、親の育て方が悪かったせいだ」というような心理に陥りやすくなります。

それに気づいたときは、芽から鱗が落ちる気がしますが、そのあとは恨みつらみの心ばかりが募って、かえって苦しくなることもあります。

 

あるいは、自分を責める場合もある。「結局、全部自分が悪いんだ。私はダメな人間さ、はいはい、わかってます・・」のような自虐的な心理に陥る場合もあるでしょう。

 

どちらも、建設的な心のあり方とは言えないですね。

 

たとえ原因を分析するとしても、それはあくまでも、その先の行動に結びつけるためのステップ。一番大事なのは、行動なのです。

 

もう一つ、アドラー心理学の特徴を挙げておきます。これは、あまり強調されることがないような気がするのですが、僕は、とても重要なポイントだと思っています。

 

それは、アドラー心理学が、心を「育てる」メソッドだ、という点です。

 

観葉植物やペットを育てることを思い浮かべていただきたいのですが、「育てる」というプロセスは、機械の組み立てなどとは違う、幾つかの特徴があります。

 

1) 時間がかかる 

「電子レンジでチン」のようなインスタントな方法はありません。生き物が育つには、それ相応の日数が必要です。

 

2) 「育つための能力」は種の中に備わっている 

生き物の成長プログラムは、種子や卵の中に元から組み込まれています。機械の場合は、人間が設計、部品作り、組み立てまで全部やる必要がありますが、育てる場合は、そんな必要はない。育てる人は、育ちやすい環境を整えればいいのです。

 

3) 個体ごとに性質が違う(「個性」がある)

単細胞生物から人間まで、生き物は、同じ種でも、個体ごとに異なる性質を持っています。だから、同じ条件に接した際でも、違う反応を示すことが多いのです。そこには「これが正解」という単一の答えはありません。

 

4) すべての反応は、「生きながらえる」ためにやっていること

生き物を育てていると、妙な(あるいは不都合な)習性や反応を示すことがあります。それは、育てる側にとって厄介な現象であっても、生き物にとっては、直面している環境の中で自分が生き永らえるために必要だからやっていること。それを、育てる側の都合で取り除いたり、矯正することはできません。無理にやると、弱ったり、死んでしまったりします。できるのは、環境を整えることです。

 

とまあ、こんな感じでしょうか。

 

これも、体の話に当てはめて解釈してみましょう。

 

メタボ気味になってしまったのは、ラーメンなどを好き放題に食べ過ぎたから。それは事実ですが、だからといって脂肪細胞に向かって悪態をつくのは筋違いです。彼らは「生き残るためにエネルギーを蓄える」という自らの使命を一生懸命やっているのです(4:生き永らえるため)。ただ、「週5回ラーメンを食べる」という環境においては、結果として蓄積脂肪が増えてしまい、糖代謝や血圧コントロールが異常をきたした。この結果だけを見れば病的な姿ですが、そうなった過程は、生き物としての真っ当な反応です。

 

では、ラーメンなどを減らす方向へ、行動を変えられたとしましょう。体脂肪は徐々に減っていくはずですが、時間がかかります(1:時間がかかる)。減るスピードにも個人差があるでしょう(3:個体差)。また、どこまで体脂肪を減らせば健康体に戻るかにも、個人差があります。

 

ですが、環境(行動)が変わって体脂肪が減り始めれば、体内の代謝反応は自然に健全な方向へ切り替わります(2:能力は備わっている)。環境さえ整えれば、健康体は、体が勝手に実現してくれるのです。

 

これも、体の話であれば、素直にうなづけるストーリーだと思います。

 

ところが心の話になると、「何かちょっとしたノウハウを知ればすっかり心が明るくなる」的な勘違いに陥りやすい。また、自分の意思で隅々まで制御できるという機械論的な発想にも、なぜかハマりやすいのです。

 

「心を育てる」という感覚を持てば、心のノウハウ話の受け止め方も、全く違ってくると思うのですね。

 

「心のブレーキ」に気づいて目から鱗が落ちるのは、行動のための最初のステップ。

 

大事なステップではありますが、もっと大事なのはその後。

 

行動を通じて、心を「育てていく」ことです。