だからやっぱりギブソンが好き

Gibsonの古いギターと、ラグタイム音楽、そしてももクロをこよなく愛するフリー物書き、キタムラのブログ

【ももクロ考その3】失敗しても大丈夫さ

ももクロアドラーのお話。第3話です。

 

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いま、フジテレビ系CSチャンネルで、「坂崎幸之助のももいろフォーク村」再放送をやっている。

1月の放送分。ゲストは広瀬香美さん、WaTなど。

WaTは解散宣言をしたので、ももクロとの共演はこれが最初で最後、、、というのが今回のウリ。

 

第1回にも書いたとおり、僕がももクロにはまっていったきっかけは、この番組だ。

 

生放送で、リクエストを受けた歌をメンバーが次々に歌っていくという設定は、メンバーにとってかなりシビアなチャレンジだろう。

何しろリクエストしてくる視聴者は老若男女、幅広い。それぞれの思い入れに基づいて、「この曲が聴きたい!」という希望を送ってくる。ももクロメンバーが生まれるよりずっと前に作られた曲も、容赦なくリクエストされる。

 

歌う曲がいつ確定するのかはよく知らないが、たぶん放送数日前に初めて聴いた曲を、ガーッと練習して披露する、なんてこともあるんじゃないかな。

 

それできっちり歌いこなすんだから偉いものだ・・・と、文章の自然の流れから言えばそういう展開になると美しいのだけれど、、、現実は必ずしもそうではない。

 

ときどき、大失敗が起きる。

 

聴いていて「ウギャ~~!」って叫びたくなるほど音程が外れたり、歌い出しのタイミングを逃して「あ、あ、、、もう一回!」って叫んだり。

 

そんな事故が起きても、生放送だから編集できないのだ。

 

そもそもの発端はたしか夏菜子だった。第1回の放送で、コーラスパートの入りを見事に間違えて全員大爆笑になり、、、顔だけじゃなく髪の分け目まで真っ赤になって照れていた(笑)。

この番組の方向性を決定づける、見事な大ボケでした。

 

まあ、最近はみんなかなり上達しており、大事故は減っているけれど、最初のころはなかなかすごかった(それも楽しみだった・・・笑)

 

さて、、僕はもちろん、ももクロの揚げ足を取りたくて、こんな話をしているわけではない。

 

「失敗をどう捉えるか」について語りたいと思っているのだ。

 

一般論としていえば、失敗は、しないほうがいい。それはまあ、そうだろう。

特に、職業上の行為(プロとしてやっていること)における失敗は、理念としては、あってはならないこと。

これは、誰も否定できない正しい言い分だ。

 

とはいえ、、、人間である以上、誰でも必ず失敗をする。

米倉涼子演じる外科医が「ワタシ、失敗しないので」というキメ台詞をかますドラマがあったけれど、あれはドラマ(虚構)だけの話。そのドラマでさえ、あの外科医の原点は、若い頃の大きな失敗にあったという設定だった。

 

失敗をどう受け止めるかには、その人の人間性が現れる。

 

これは僕自身も経験があるのだが、、、「絶対に失敗をしたくない」という気持ちに凝り固まった人間が選ぶ「究極の生き方」は、だいたい決まっている。

「失敗しそうなことに手を出さない」という生き方だ。

 

そういう生き方から、創造的なものが出てくることは、決して、ない。

また、そういう生き方では、人間は成長することもできないだろう。

 

自分の中の個性や魅力を開花させようと思うなら、「失敗」は、絶対に避けて通れないのだ。

 

さらに私たちは、成功を積み重ねるだけでは学べないことを、失敗から学ぶことができる。

対処法や謝り方といった現実的な方策はもちろん、「失敗したときに自分の心はどうなるか」という貴重な経験もできる。

 

そして、おそらく一番大事な学びは、、「失敗してもなんとかなる」という実感だ。

 

宇宙飛行士や飛行機のパイロットのような特殊な仕事は別にして、普段われわれがやっている行為では、失敗したからといって、命まで取られるようなことはない。

たいていは、まあ、なんとかなるものだ。

 

「なんとかなる」と思えるようになれば、必要以上に失敗を恐れることなく、新たな試みにチャレンジできる。

 

「失敗しそうなことに手を出さない」に比べたら、「失敗する」ことのほうが、はるかに建設的で得るものが多いのである。

 

さて、このへんでアドラーさんの出番である。

 

アドラー心理学は「勇気づけの心理学」と呼ばれることがある。

 

「勇気づけ」はアドラー心理学特有の言い回し。ここでいう勇気とは、崖から飛び降りるような蛮勇のことではない。未知のことに対して一歩前に踏み出すような気持ちを指す。

 

勇気を持って一歩前に踏み出すことを積み重ねていけば、人生は豊かに、ハッピーになる。だから恐れずに踏み出してみよう、と、アドラー先生はそういっているわけだ。

 

「そんなこと言われても、どうしたらできる?」って思うだろうか。

 

まあ、そのやり方を説明しているのがアドラー心理学なので、全部をきちっと説明するには本1冊分ぐらいのお話になるわけだけれど。。。(笑)

 

現実的な重要ポイントは、「失敗しても大丈夫」っていうところにあるだろう。

 

そして、それを納得するためにはアドラーさんの本を読むのもいいけれど、「あ、本当に失敗しても大丈夫なんだ」って実感するには、このももクロの生番組を見るのがとっても役に立つと思うのである。

 

ももクロちゃんたちは、失敗しても、めげない。

 

いや、放送が終わった後は泣いたり落ち込んだりしてるらしいけど、番組の中では「やっちまった~~」とか言いながら、それでもチャレンジをする。

 

周りも、笑ったり冷やかしたりしながらも、場を盛り上げ、盛りたてていく。

 

そういう流れが全体として、心が元気になる番組を作り上げている。失敗も、その一部なのだ。

 

「間違えないこと」「上手く歌うこと」だけに価値があるわけではない。

 

これは、アドラーのいう「勇気づけ」そのものだろう。

 

そのことが、とてもよくわかる番組だ。

 

一応、ももクロちゃんたちの名誉のために言っておくけれど、番組スタートの頃に比べたら、5人ともものすごく上手くなったと思う。

中でも目立つのは、もともと頭一つ抜けた歌唱力の持ち主だった有安杏果。いまや、はまったときには、鳥肌が立つほどのみごとな歌を披露する。個人的には、そろそろソロアルバムを作って欲しいと思う。

杏果だけではない。玉井詩織は、中村あゆみとコラボした「翼の折れたエンジェル」で、美少女イメージを突き破る強烈なハイトーンを聞かせたし、高城れに奥華子と歌った「HappyBirthday」は、心の奥に染み込むすてきな演奏だった。そして百田夏菜子佐々木彩夏は、なんとSHOW-YA寺田恵子と渡り合うほどのパワフルなパフォーマンスを披露した。

 

ただ、、、結果として披露されるパフォーマンスが「上手い」から心を打つのかといわれると、、、それだけではないと思うのだ。

 

むしろ、「上手くなっていく」という過程の向こう側に浮かぶプロセスに、大きく心が動かされているような気がする。

 

「結果の評価」よりも、「成長の過程」。

 

「上手くできたから偉い」ではなく、「頑張ったことが尊い」のような感じ。

 

そんな実感が伝わってくるのである。

 

もう一度、アドラーに話を戻すと、、、

 

「勇気づけ」を強く訴えるアドラー心理学だが、実は「ほめる」ことは推奨していない。むしろ、結果をほめるべきではないというのが、アドラー心理学の立場だ。

 

なぜなら、結果をほめることは、「ほめてくれる人に依存する心理」を助長し、本質的な成長をむしろ妨げるから。

 

「ほめ」は、他者からの評価。「ほめられたいから頑張る」という心理は、ほめる人がいなくなると頑張る価値を見失う。

 

また、ほめられることに慣れてしまうと、結果が芳しくなかった時には、「こんな結果しか出せない自分には価値がない」と落ち込んでしまう。

外からの評価に、自分の存在価値を依存してしまうわけだ。

 

なぜ、人は歌うのか。

 

根源的には、それが楽しいからだろう。

 

自分が楽しく歌えば、それが人の心を楽しくする。

 

そして周りが笑顔になれば、それがまた自分の心を明るくする。

 

そんなハッピーな循環を実現するには、、、失敗を恐れるより、上手く歌うことより、もっともっと大事なことがある。

 

まず一歩前に出て、歌うことだ。

 

こうやって文字にすると素朴すぎるほど素朴な話だ。

 

そう、アドラー心理学のメッセージは、ある意味とても単純。

 

理論を本で読むのもいいけれど、核心となる精神は、頭でっかちになりすぎずに胸に手を当ててみれば、本当は知っている話だ、と感じることが多い。

 

だからももクロちゃんたちは、アドラーを体現しようなんて考えてもいないだろうけど(きっとアドラーの名前も知らないよね)、自然に、かなり見事に体現している。僕はそう思う。

 

それは多分、彼女たちが本気でみんなをハッピーにしたいと願っているからだ。

 

そこはアドラーも一緒。彼も本気で、世の中を幸せにしたいと考えて、独自の心理学を構築した。

彼には、学問的な名誉なんて、どうでもよかったのである。

 

だから両者の精神は深いところでつながっている、、、、なんていう説明は、ももクロアドラーの関係を結ぶには、単純すぎるロジックにみえるかもしれない。

 

でも、僕はけっこう本気でそう思ってる。

 

 

・・・まだ書き足りないことがあるので、このシリーズはもう少し続く予定です。