暗闇体験(ダイアログ・イン・ザ・ダーク)と、失敗したくないココロの不思議な関係

ダイアログ・イン・ザ・ダークをご存知だろうか。

 

www.dialoginthedark.com

 

自分の手のひらも見えないほどの完璧な暗闇の中に設置されたコースへ、白い杖を持って少人数グループで入り、コース内のいろんな仕掛けを、視覚以外の感覚(聴覚、嗅覚、触覚など)を頼りに進んでいく体験型エンターテインメントだ。

 

発祥はドイツで、日本初開催は1999年。
当初は期間限定イベントだったが、今は東京・外苑前に常設会場ができた。

 

コースを案内するのは、アテンドと呼ばれる視覚障害者。

彼らは普段から視覚を使わずに生活しているので、真っ暗闇の中でも、普段となんら変わらずに動き回ることができる。

 いわば、暗闇のエキスパート。

 

・・・と、説明的にいえばこんな感じになるのだけれど、この体験をすることで、自分の中にどんな経験や変化が沸き起こるかは、実際に体験してみなければわからないと思う。

想像がまったくおよばないぐらい、日常のあり方とはかけ離れた状況に遭遇するという意味だ。

 

僕はこのイベントを、これまでに3回経験している。

最初は2006年。まだ常設化される前のことだ。

 

その時の感想が、旧ブログに残っていた。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク | カラダの語り部、ときどきギタリスト

 

 

 

・・・・10年近く前に書いた文章の書き出しが、今書いているこの文章とまったく一緒だったので思わず苦笑してしまったが、、まあそれはともかく。。

 

この時の感想の核心は、冒頭近くのこの段落に集約されている。

 

>>以下引用

コースは本当に、真っ暗。隣の人はもちろん、自分の手のひらさえも、全く見えない。
だから、目を閉じても開いても、何も変わらない。
当然、足が凍り付く。ほんの10cm足を前に送ることにも、勇気がいる。

>>

 

このときの感覚は、今でもかなり鮮明に覚えている。

あそこまで見事に「足が凍りつく」体験は、他に覚えがない。それほどまでに、まったく足を前に送ることができなくなった。

 

自分の手も、足も、床も、何も見えない。

 

何も見えないことが、ここまで怖いのか。

 

もちろんそうは言っても、なんとかして前に進まないと、話は始まらない。

頑張って、勇気を振り絞って、歯を噛み締めて、1歩につき数センチずつぐらいの牛歩の歩みで、じわりじわりと前に進んだことを覚えている。

そんな風に進むことさえ、清水の舞台から飛び降りるほどの、大変な勇気を必要としたのである。

 

まあ、もちろん、、5分、10分と闇の中で過ごすうちにだんだん慣れていったのではあるが。

(その変化に伴って自分の中に湧き上がる、過去に経験したことがない感覚世界の豊かさが、このイベントを一級のエンターテインメントにしている。。という話は、ダイアログ・イン・ザ・ダーク体験の中核だと思うけれど、今日の主題ではないのでここでは深く追求しない)

 

・・・とにかく、2006年の経験は、想像を超えた「恐怖感」から始まったのだった。

 

で、、それから10年近くご無沙汰だったのだけれど、先週と先々週、立て続けに2回、ダイアログ・イン・ザ・ダークに参加することになった。

これは、とある雑誌の企画で、ダイアログ・イン・ザ・ダーク日本法人代表の方にインタビューをすることになったため、その準備の一環として経験したのである。

 

その上でインタビューも、先週の金曜日に終了している。

 

記事を書くのはこれからなので、このブログは、ネタバレにならないように注意しながら書かないといけないのだけれど・・・(笑)

 

ネタバレのリスクがある中で、わざわざ記事を書く前にブログにこのネタを書こうと思ったのは、、、今回の2回の経験が、2006年の経験と、あまりに違ったからだ。

 

一言で言えば。。

 

全然、、まったく、、怖くなかった。

 

え、、コースが軟弱になったんじゃないかって?

 

いや、そんなことはない。だって、一緒に入った初参加の人たちの中には、2006年の僕と同じように、足を一歩踏み出すことさえままならなくなって立ちすくんでいたと思われる人も、何人かいたようだから。

 

それに、2006年の僕は、コースの複雑さや激しさに恐怖を覚えたのではない。

暗闇そのものが、怖かったのである。

だから、スタート地点から一歩も動くことができず、その場でいきなりフリーズした。

 

それが今回は、2回とも、いきなり快調にすたすたと歩きだしていた。

自分の手も見えないほどの暗さという条件は、何も変わっていないのに。

 

まあ、初めてじゃないという慣れの要素なら、少しはあるかもしれない。

 

でも、、、初めての経験からすでに10年近く経っている。

10年前に一度慣れたと言っても、こんなに時間がたったら、どんな感覚だったか、普通はもう忘れているだろう。

 

それで、、、先週のインタビューの終盤、聞きたい話はおおむね聞き終わって半ば雑談に移りつつある頃に、この僕自身の経験が、ふと口をついて出た。

 

「前の時はすごく怖かったのに、今回は全然怖くなかったんですよ・・」

 

この間、自分の中で、何か変化があったのだろうか?

 

と、、同行していた編集者さんが、ほつりと口を挟んだ。

 

「それは、きたむらさんが会社を辞めたからじゃない?」

 

!!

 

おお、そうか。

 

2006年といえば、僕がまだ会社員だったころだ。

僕が退職したのは2009年。

 

会社員を辞めてフリーランスになる場合、そこではたいてい、価値観や人生観がからりと大きく変わる。

僕ももちろん、そうだった。

 

なかでも、「失敗」というものの捉え方が、大きく変わったように思う。

 

会社員だった頃は、「失敗したらまずい」という思いが、相当強く自分の心を支配していた。

よく言えば、責任を背負っていた、とも言える。

でも、失敗を恐れるあまり、難しいことに踏み出すときにものすごいエネルギーが必要な、腰が重い状況に陥っていたのも事実だ。

 

それが今では、、、「どんなことでも、結果がどうであれ、とりあえずやってみたらいいじゃん」って、普通に思うようになった。

それで何かにつまずいてこけたとしても、また立てばいいだけのことさ。

 

こんな風に考えると、、、

 

暗闇で体をフリーズさせたものの正体は、「失敗したくないココロ」だった、と解釈できる。

 

「まあ、失敗してもなんとかなるさ」と思えるなら、、暗闇でもフリーズはしない。

 

そして、そういう状況の方が、視覚以外の感覚(聴覚、嗅覚、触覚など)も、鋭敏に働き出すのである。