脳は都合よく記憶を書き換える、、を実感できたお話
年をとると物忘れしやすくなるとは思っていたけれど、あんなに見事に記憶が消えていた経験は、初めてだ。
先日、リビングで掃除機をかけていたところ。
かみさんがいつも座っている椅子の足下あたりで、ふと目が止まった。
その椅子には、彼女が夏の間ずっと愛用していた、エアレーション機能付きのマットが
置きっぱなしになっている。
ファンを回して座面や背中から空気を送り、涼しい座り心地にする、というしくみだ。
電力で動く装置だから、当然、電源を取る必要がある。こいつはUSBケーブルでつなぐ方式。
だから、ケーブルの先端には、USBのジャックが付いている。
・・・はずなのだが、床に垂れたケーブルの先に、ジャック部分がない。
ケーブルの末端は、まるでただの紐のようだ。あるべきコネクター部がなくて、そこでブチっと終わっている。
よく見ると、中の導線の断面が露出して見える。
どうやら、何かの拍子にシャック部がちぎれたらしい。
その椅子はキャスターがついていて、ガラガラ動くので、たぶん彼女が座ってる時にガラッと動いて、コードが引っ張られ、ちぎれたんだろう、と想像した。
まったく、もう。
夜、カミさんが帰宅したので、その話を振ってみる。
「そのマット、コードがちぎれてるけど、どうしたの?」
すると、予想もしていなかった返事が返ってきた。
「あなたがちぎったんじゃない!」
へ???
彼女が言うには、ある日僕が掃除機をかけていた時に、椅子を不用意に動かしてケーブルを切ったらしい。
いや、彼女はそのシーンを目撃したわけじゃないんだけど。
あるとき、帰宅した彼女に、僕が「ゴメン、ケーブルがちぎれちゃったよ、、、」と謝った日があったというのだ。
そ、そうなんですか?
「そうよ、自分で謝ってたじゃない。覚えてないの?」
はあ、、覚えてません、、、。
まあ、そういうことで嘘をつく人じゃないので、騙されてるわけではない、と 思うけど、、、
だけど、全く、本当にカケラも、そんな記憶は、ない。
天地神明に誓って、ない。
いや、やってないって言いたいわけじゃない。
ここまで見事に記憶がない、ということに、驚いているのだ。
ホントに、僕が謝ったの?
「そうよ、あなたがちぎったんだってば! これ、気に入ってたのに、夏までになんとかしてくれないと、、、」
、、、これ以上突っ込むのは、自分の首を絞めるだけっぽいので、やめておこう。
だけど、ホント、驚いた。
だって、こういう話って普通、忘れてたとしても、言われたら思い出しそうなものじゃないですか。
でも、、、そういわれても、全く何も、思い当たらない。
ホントに、見事に、記憶が抜け落ちているのである。
いやぁ、、人間の忘れる力ってすごいなぁ。
、、、、なんていう顛末が、たぶん1、2週前のこと。
昨日、ふとこの話を思い出した。
で、、、その瞬間、さらなる展開に、ぎょっとしたんですね。
というのは、、、昨日思い出した僕の記憶の中では、なぜだか、僕が彼女に
「ゴメン、掃除してたらケーブルが切れちゃってさ〜」
って謝ってるシーンが、きちんとそれらしく浮かんできたのである(笑)
これは、実際のシーンを思い出したわけじゃないだろう。
なぜなら、ケーブルが切れた瞬間のシーンは、記憶の中のどこをどうたぐっても、見当たらない。
完全に抜け落ちている。
こっちが抜け落ちたままで、謝ってるところだけ思い出すのは、不自然だろう。
だから多分このシーンは、先日のカミさんとの会話を踏まえて、僕の脳が適当に作り出したものに違いない。
「脳は帳尻を合わせるべく、記憶を書き換える」というけれど、ここまで見事な仕事をするんだな。
今回は、たまたまこういう経緯の中で、事の次第が明るみになったけれど、普段、まったく気がつかない間にも、記憶がスカッと抜けたり、都合よく書き換えられるといったことが、よく起きているのだろうな。
まったく、、、脳って、すごい。